最近話題の「生産性」議論に対して、基礎経済学論で考えてみる。
最近何かと話題の「生産性」の向上。
伊賀泰代さんの最新著書「生産性」について面白い記事にもありますが、本当に「労働時間を減らして、成果を高める」事は可能なのでしょうか?
関連ページ:労働時間を減らして、成果を高めるのです。 伊賀泰代氏に聞く「働き方改革」の本質【第1回】 | 伊賀泰代氏に聞く「働き方改革」の本質|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
私の働いている会社でも、会社的に労働時間を減らして成果を高めることで生産性を高めよう、という命が下っており、人事部が日々頭を抱えています。
だが、どこでも「生産性」というと、労働時間だったり、アウトプットや成果など、かなり抽象的で定性的な議論ばかりされているので、今回は基礎経済学論を使ってその「生産性」について考えて見ようかと思います。
初級マクロ経済学のおさらい
大学で経済学の授業をとったことがある人は、生産関数(Production Function)というのを聞いたことをあるかと思います。
その中でも一番有名な、コブ=ダグラス型生産関数のおさらいをしてみます。
コブ=ダグラス型生産関数とは?
コブ=ダグラス型生産関数(Cobb-Douglas production function)は下記のような数式で表せます。一度は見たことある人もいるのではないでしょうか?
ここで、Yは生産量、Aは技術進歩などで変化するスケール係数、Kは資本量、Lは労働力を表します。
そしていちばん大切なαは分配率と言われており、αが大きいほどKがYにもたらす影響が大きく、小さいほどLがYにもたらす影響が大きくなります。
この関数をKとLの二次元のグラフにプロットすると、下記のような形になります。
ここでの変数はLとKであり、青い線上におけるYはずっと同じ定数です。
この線が右上に行けば行くほどYが大きくなるとイメージです。三次元のグラフでは高さですね。ちょうど地図でいう標高のような感覚と似ています。
最高値のYを出すためには、限られた資源(Cost Function)で、KとLでより右上のKとL配分を考えなければなりません。
このグラフへ、その限られた資源をプロットすると、下記のような直線になります。この場合AポイントがYの最大値を発揮できるKとLのコンビネーションになります。
生産関数を企業と個人に置き換えてみる
このコブ=ダグラス型生産関数は企業と個人の生産性に置き換えられると考えられます。
Yは生産高なので、企業(個人)では成果(≒売上)に近いものなるでしょう。
Aは技術の進歩なので、正直企業単位ではコントロールできないものと考えます。ITの発展などが考えられます。
Kは資本、つまり会社の設備や、配布パソコンやシステム、機械などが考えられます。
そしてLは労働力、従業員や労働時間と置き換えることが出来ます。
そしてこの生産関数を個人単位まで落とし込むと、例えば営業マン一人の生産関数は下記のように置き換えることが出来ます。
「生産性」とは
それでは上記の式をを使った「生産性」を定義します。
よく使われている「生産性」の定義は(成果)/(労働時間)なので、下記のように表せます。
単純にY割るLです。
生産関数を使った「生産性」論の2つの仮説
上記の生産関数から、今色々と議題にある「生産性」について2つの事が仮説として建てられます。
1.労働時間を削るだけでは成果は減るだけ、同じ成果を残すためにはKかAを上昇させる必要がある。
2.企業のビジネスの特性(α)によって「生産性」と「成果」の影響力は大きくかわる。
この2つを一つづつ考えてみます。
1:労働時間を削るだけでは成果が減るだけ
当たり前ですが、労働時間(L)を削れば、成果(Y)は落ちます。
しかし、分配率(α)のお陰で、Lが100%落ちたとしても、Yの下落は100%以下に留められ、生産性という意味では向上が見られるかと思います。
それでは本末転倒。
労働時間を減らしづつも、Y(成果)キープまたは、上げるためにはどうしたらいいか?
その場合Kを増やせば打ち消すことが出来ます。つまり、パソコンやシステムなどその他成果に貢献する投資を行う必要があります。
つまり、よく巷で言われている労働時間を減らしただけで生産を上げて成果を増やすと言うことは、数式的には不可能な事で、もし成果を上げたいなら、労働時間を減らすと同時に、他のインフラや、設備に投資をおこなう必要があるかと思われます。
極端に言ってしまえば、「生産性」だけをあげたいのであれば、 下記の式にもあるように、労働時間をどうのこうのするより、設備投資(K)だけを増やせば自然と上がってしまうのです。
また、それらの尺度は、次項で紹介するα(分配率)によって大きく採用されます。
2:企業のビジネスの特性(α)によって「生産性」と「成果」の影響力は大きくかわる。
そもそもαとは何でしょうか?
αはどれだけKやLが企業の成果(Y)に寄与しているを表す尺度です。
αが高い企業は、KがYに影響する尺度が高く資本中心(Captal Intensive)の企業特性かと思われます。
例えば、設備投資比率が大きい企業や、GoogleやAmazonなどのインフラを提供している企業などがそうなるでしょうか。
個人単位では、成果を時間が相関しないようなコンサルやクリエイティブな仕事はαが高いかと思われます。
ちなみに資本中心(αが大きい)生産関数の形は下記のような形になります。
同じ予算曲線(CostFunction)でも、生産曲線がKよりなので、最適値はLよりKに投資したほうが高いYを生み出すことが出来ます。
逆にαが小さい企業はLがYに影響する尺度が大きくなり、労働中心(Labour Intensive)の企業特性になります。
例えば、あまり言葉は良くないですが、単純作業中心の企業や、接客などを行うサービス業などがそれに当たるかと思われます。
個人単位では、人海戦略的な営業や、接客業などが該当する傾向にあるかと。
αが小さい(労働中心)の生産曲線は下記のような、より曲線がLによった曲線になります。
この場合は、同じコストでもよりL(労働力)を投下したほうが高いYを求められることができます。
つまり、同じ労働力でも、αの値によって労働時間を削減したことによるYの損失の大きさに大きな違いがあると思われます。
αが大きい資本中心のビジネスや職種では、労働時間の削減はそこまでYの値を下げることがないので、成果が大きく落ちることがないので結果生産性は上がりやすいでしょう。
しかし、αが小さい、労働中心のビジネスや職種は労働力を下げた時のYに対する影響が大きく、成果を大きく下げることになり本末転倒の結果となることがわかります。
反対に、そういったαが小さい労働中心のの場合、長く働けば働くほど成果として返ってくるとも考えられます。
少し昔の高度成長期の日本のビジネスは主に、このαが小さい労働集約的なビジネスであった為、長く多く働く事が良しとされ、同様に成果がついてきたのでしょう。
しかし時代が変わり、より資本中心的なビジネスモデルや企業が増えてきたため、ただ労働力を上げただけでは成果はついてこず、今まさに問題になっている事象かもしれません。
何が言いたいかというと、αが大きい資本中心の企業や職種に関しては、労働時間の削減して同じ成果を出すには、少量の整備投資(Kを上げる)事で生産性は大きく改善されるかも知れませんが、αが小さい労働中心の企業や職種にとっては労働力を削減して同じ成果をキープするためにはより多くの設備投資(Kを上げる)事が必要になってくる、という事になります。
単純に一様で労働時間だけを削減すれば、成功する企業(職種)と、失敗する企業(職種)が明白に別れるのは明白です。
Caveats
今回は「生産性」について古典的な経済学のコブ=ダグラス型生産関数を使いましたが、そもそもこの生産曲線が正しいという実証はありません。
また、今回は、労働力(L)は同一賃金同一労働力を前提にしていますが、実際は全く一緒なんてことはありえないです。
Kにおいても設備投資とは言っても色々な種類がありますし、また生産においてKとL以外にも他の要因が大きく影響し合う可能性もありますので、完璧とははるか遠い仮説ではあります。
しかし、自身や企業の「生産性」を考える時に上記のような考え方を参考の一つとして考えるものありかと自分は思っております。
①労働時間だけ下げるのは意味がなく、それと同時に違うところへの投資も必要(Kを上げる)
②企業特性や、職種によって労働時間削減の影響は全く違うものとなる
一様に勤務時間だけを短縮して、成果をキープしろなんて改革は正直不可能に近いです。
※この記事を書いて、朝起きたら、その他様々なご意見/指摘・ツッコミ等を色々な方からはてなブックマークコメントにいただきました!是非ご覧くださいませ。正直私は全然勉強不足で浅はかだったと痛感いたしました。コメント頂いた方ありがとうございます。(11月28日更新)
さいごに
ばーっと、思っていることを書きなぐりましたが、意外に文章化するというのは難しいです。
読みにくい文章で申し訳ございません!日々改善の努力を続けていきます。
「生産性」に関してご興味ある方や人事部で無理難題を押し付けられている方は、伊賀泰代さんの著書オススメします。名著「採用基準」を書いた方です。
αが大きい、より"人材"資本中心のマッキンゼーでの「生産性」とは。
大変勉強になります。